濵田暁彦医師 コラム No.96
2020/02/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.230」2020年3月号掲載)

「米国の医療用麻薬乱用問題=オピオイド・クライシス(危機)」


今回はアメリカの医療用麻薬の乱用問題についてお話しします。アメリカでは近年、オキシコドンやフェンタニルといったオピオイド系医療用麻薬が「医療用麻薬は常習性が低く安全だ」という製薬会社の誇大宣伝により、がん以外の慢性疼痛や術後の疼痛などに安易に処方されてきました。
 これらの医療用麻薬が闇市場などで流通し多くの依存症患者を生み出し、過剰摂取による死亡が交通事故死亡を上回るほど増加する事態に陥りました。2017年の1年間にアメリカでは170万人がオピオイドの乱用で精神障害を起こし、そのうち4万7千人が死亡したと報道され、さらにこの20年間で約40万人が死亡しています。この事態は「オピオイド・クライシス(危機)」として2017年アメリカのトランプ大統領も国家非常事態宣言を発令し、麻薬処方を乱発した医師や闇ルートの販売業者の摘発・厳罰処置を講じ始めました。更にWHOによるとアフリカや中東など世界中にもこの傾向が広がっており、2015年の薬物過剰摂取による死亡者17万人のうち4分の3がヘロインなどのオピオイド使用によるものでした。
 オピオイドの歴史は古く、古代から「芥子(ケシ)=opium poppy:オピウム・ポピー)の実」から採取された果汁には鎮痛鎮静効果があり、同時に習慣性や乱用による健康被害をもたらす「麻薬」としての特性が知られていました。このケシの実を乾燥させたものが「阿片(アヘン)=opium」で、モルヒネやヘロイン、コデインなども同様の麻薬です。日本で問題となりやすい覚醒剤のような意識を高揚させる「アッパー系」薬剤とは逆に、オピオイド系の麻薬は気分を落ち着かせる「ダウナー系」とも言われますが、覚醒剤にしろ麻薬にしろ、その成分は本来ヒトの脳内物質として存在しているドパミンやセロトニン、エンドルフィンといった興奮や恍惚を感じる物質に類似しているために脳がこれらの快感を感じるのです。アメリカでは以前から戦場での鎮痛や負傷者の安楽死、兵士の士気高揚のために麻薬が使用された歴史がありました。南北戦争ではモルヒネが、ベトナム戦争ではヘロインが、イラク・アフガン戦争では医療用麻薬の娯楽目的の使用が広まったと言われています。今アメリカでは麻薬を大々的に宣伝し売り出していた製薬会社に対して何千件という訴訟が起き、何億ドル(何百億円)規模の制裁金・和解金が科せられ破産する会社も出ています。有罪判決を受けた製薬会社幹部には5年以上の禁固刑が言い渡されたりと、社会からの厳しい制裁が科せられてきています。さらに昨年2019年6月にはこれら製薬会社と関係の深かった米国疼痛学会が突然解散するという事態も起きています。
 オピオイド危機の原因は製薬会社の誇大宣伝だけでなく、2008年のリーマンショックに端を発した世界同時不況による失業者増加がうつ病や精神不安、慢性疼痛患者を増加させ、薬物依存者を増加させたとも言われており、この問題の根はかなり深くさらに枝分かれをしているようです。日本ではがん性疼痛などへの適切な麻薬の処方が法律で厳しく規制されているためアメリカの様な麻薬の蔓延には至っていませんが、違法薬物使用による有名人の検挙が相次いで報道されており全くの他人事では済まされない問題なのです。


!!!冊子「くすぐる診療所」を増刷しました。丹後中央病院1階売店「いちょう」にて再販中。 1冊 600円+税 !!!

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定医、専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本ヘリコバクター学会認定医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会