濵田暁彦医師 コラム No.89
2019/07/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.224」2019年8月号掲載)

「『腸内細菌』の話-その3:腸と脳の深い関係-『過敏性腸症候群』2」

以前に「慢性便秘症」のお話しをしましたが、今回はしょっちゅうお腹が痛くなる「過敏性腸症候群」についてお話しします。

 都会の通勤電車の駅のトイレには朝のラッシュ時にも関わらず長蛇の列が出来るという話を聞いたことがありますが、これは都会の30〜40代の働く男女には「過敏性腸症候群」という、緊張すると「腹痛」を起こし、排便する事で痛みが改善するという症状に悩む人が多いことが原因ではないでしょうか。
 中には通勤途中にトイレに行きたくなることを恐れて朝食を食べないという人も多く、これでは仕事の効率も落ちてしまいます。

 もう少し詳しく説明すると、「過敏性腸症候群」とは、大腸の内視鏡検査をしても大腸がんや潰瘍性大腸炎の様な目に見える病気が無いにも関わらず、「ストレス」を感じる事でしょっちゅう腹痛を起こす厄介な病気で、便秘の場合も下痢の場合もあるのです。腸と脳は神経(迷走神経)だけでなく様々なホルモンを介して互いに影響を及ぼし合っていて「腸脳相関」と呼ばれています。しかし過敏性腸症候群は精神的ストレスだけが原因ではなさそうです。
 例えば食べ過ぎ飲み過ぎなどの偏った食生活や、寝不足、腸の感染症になった後、細菌をやっつける抗菌剤や胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬などの薬の常用が原因で、腸内細菌のバランスが悪くなり=「ディスバイオシス」が起こると、腸が痛みに過敏になってしまうと考えられています。更に言えば「精神的ストレス」そのものが腸内細菌のバランスを変化させたり、皮膚の細菌叢のバランスさえも変化させてしまうという事がわかって来ており、そのため精神の乱れが腸や皮膚のトラブルにつながるのです。

 現在での治療法は、主に整腸剤や腸の動きを緩やかにする薬、軽い抗うつ薬などで、もちろん生活習慣や食事内容の改善も必要です。しかし新しい治療法として期待されているのは、健康な人の腸内細菌を病気の人の中に入れる「便移植」という治療法です。まだ有効性が確立している治療法ではありませんが、過敏性腸症候群が精神的ストレスだけで無く腸内細菌の変化=ディスバイオシスが原因だとすれば、この治療法で過敏性腸症候群が治る様になるかも知れません。更に腸内細菌=腸内フローラ=マイクロバイオータは、アレルギー(花粉症・アトピーなど)・うつ病・肥満・動脈硬化・大腸がん・肝臓がんなどの発生と密接に関係していることがわかって来たため、将来これらの病気に腸内細菌の治療が行われる様になる日も来るかも知れません。

参考文献:
1.福田真嗣「おなかの調子が良くなる本」KKベストセラーズ
2.アランナ・コリン「あなたの体は9割が細菌」河出書房新社


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執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会