濵田暁彦医師 コラム No.88
2019/06/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.223」2019年7月号掲載)

「『看護師の心の深層』-感情労働と燃え尽き症候群-その2」

看護師をはじめ対人的なサービスを行う職業では、自分の感情を抑えて相手に
心地良い感情を与えること、つまり「患者様・お客様の満足度を高めること」が
仕事上の大きな目的の一つです。このような仕事を「感情労働」と呼びます。
看護師をはじめ、介護士、ソーシャルワーカー、カウンセラー、医師、保育士、教師など医療教育関係の仕事だけでなく、あらゆる分野の接客業、営業、苦情処理係りなど多くの「感情労働」と言える職種がありますが、看護師は医師と同様人の生死・生活に直接関わる仕事であるために究極の「感情労働」とも言えるでしょう。
看護学校では医学知識の勉強と同じくらい重要視されるのがこの患者さんを心身ともに癒す「感情労働」の分野であり、患者さんの気持ちをよく聞き=「傾聴」、受け入れ=「受容」、辛い気持ちを共有する=「共感」ということが徹底的に教育されます。
更に実際に看護師として働き出すと「患者さんに怒ったり泣いたり取り乱したり大笑いしてはいけない」「馴れ馴れしい態度をとってはいけない」「好印象の服装・髪型・立ち振る舞いをしなければいけない」などいろいろな場面で個人的な「感情」を押し殺して「良い看護師」であることが求められます。

 しかし感情労働を行う対人的職業に携わる人は自分の感情を押し殺す分だけ心理的なストレスを抱えやすく、ストレスが蓄積して行くと無気力な状態に陥りやすくなります。真面目で理想が高い人ほど懸命に患者さんに親身になるのですが、患者さんから感謝の言葉がなく苦しい訴えばかりをぶつけられると、「自分の看護が悪いのでは?」と落ち込んでしまい「辞めたい」という気持ちが持ち上がります。

  この「燃え尽き症候群」を防ぐ方法はいくつか考えられますが、これまでは同僚や上司に相談したり、それぞれの趣味などでストレスを発散したり、いっそ休息や休暇を取るといった方法で対処されてきました。さらに最近では「アンガーマネジメント(=怒りの管理活用)」という心理的トレーニングの方法も有効と考えられるようになってきました。「アンガーマネジメント」は元々犯罪者の矯正プログラムとして発展し、今では私たちの身の回りの多くのトラブル「パワーハラスメント=パワハラ」や今回の「感情労働に伴う燃え尽き症候群」への対処法として応用されて来ています。
ここでは「怒り」を喜怒哀楽の一つとして「誰もが持っている普通の感情」としてまず認めます。そして「怒りの感情」を冷静に分析して対処し場合によっては逆に「パワー」に変えてしまいます。このアンガーマネジメントの技術を実践することで徐々に心に余裕が出来るようになり、怒りをぶつけて来る人の心の奥底にある根本的な感情=第一次感情に気づき、怒りの奥にある本当のリクエスト=要求・要望が引き出せるようになるのです。
怒っている人の隠れた感情や要求に理解を示す事で、怒っている人は「辛い気持ちを分かってもらえた」と感じて怒りが自然に治まり「ありがとう」の一言が引き出せるようになるのです。その一言で辛い「感情労働」に再び大きなやりがいや喜びが感じられるようになり、再び患者さんと苦楽を共に味わう「白衣の天使」に戻ることが出来るのです。

参考文献:
1.光前麻由美「看護師のためのアンガーマネジメント「怒り」の感情を上手にコントロールする技術」日本医療企画.
2:安藤俊介「上手なセルフコントロールでパワハラ防止、アンガーマネジメント活用法」第一法規.


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執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会