濵田暁彦医師 コラム No.87
2019/05/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.222」2019年6月号掲載)

「『看護師の心の深層』-感情労働と燃え尽き症候群-その1」

前回お話しした近代看護の礎(いしずえ)を築いたイギリスのフローレンス・ナイチンゲール女史は、5月12日が誕生日でした。そのため5月12日は世界中で「国際ナースデー」とされ、日本では「看護の日」と呼ばれて毎年各地でイベントが開催されています。老若男女全ての人に看護の心、「助け合いの心」を育むきっかけを啓蒙して、家庭でのケア、地域社会での助け合い、健康な人が病気の人を守る事の大切さを伝えて来ました。
 今年の看護の日には、全国自治体病院で働く看護師を対象とした調査結果が発表されました。それによると、驚くべき事に現職の看護師の約70%は看護師を辞めたいと考えている実態が明らかになりました。その理由としては、いわゆる「3K」=きつい、汚い、危険だけでなく、最近では「8K」(最新の高精細テレビみたいですが)=結婚できない、子供を自由に産めない、給料が安い、薬漬け(痛み止めや睡眠薬などの使用者が多いためです)、休暇なし、とも言われています。

 看護師は、患者さんの体位変換、排泄物の観察・計測・始末、長時間労働、夜間勤務など過酷な「肉体労働」ですし、高度な医療知識の元で医療機器を扱い、電子カルテを駆使しながらも患者さんの健康を損なうようなミスが許されないという高度な「頭脳労働」でもあります。そして採血や点滴ルートの確保、尿道カテーテル挿入や各種の検査など、熟練を要する「職人的技術労働」でもありながら、看護師の組織は上下関係や服装、髪型などの規律が非常に厳しい「管理社会」でもあります。そして最後に、患者さんの立場に立って患者さんの気持ち、悩み、過去現在を受け入れ、病気である患者さんの「負」の感情、つまり怒りや悲しみ、無気力、自殺願望、孤立無援感、虚無感、痛み、体動困難、食事・移動・排泄・入浴・睡眠など生活の各場面での「不自由さ、社会的な偏見のレッテル(スティグマ=烙印)」を共感的な態度で援助し続けなければならないという「感情労働」の側面を非常に強く持っています。
 これが恐らく「肉体労働」や「頭脳労働」以上に看護師の仕事の中でも最も疲れる原因ではないかと考えられるのです。そして最終的に「辞めたい」と考えてしまう、いわゆる「燃え尽き症候群」に陥る危険があるのです。

 ではどうすればこの「燃え尽き症候群」を回避することができるのでしょうか? 次回は看護師をはじめとする「感情労働」を行う多種多様な「対人的なサービス」を行う人々の仕事の辛さの原因と、その辛さを和らげる方法について更に考えたいと思います。

参考文献:
1.武井麻子・著:「感情と看護」人とのかかわりを職業とすることの意味:医学書院.
2.安達富美子、平山正実・著:「燃えつきない」がん看護:医学書院.

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会