濵田暁彦医師 コラム No.85
2019/03/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.220」2019年4月号掲載)

「人工知能 Aiは医療をどのように変えるか」

コンピューターの計算能力が格段に向上したために、最近はコンピューターに非常に多くの知識(ビッグデータ)を覚えさせ、更に人間の脳神経がしているような自己学習の能力(ディープラーニング)をさせる事で、コンピューターに人間が持っている様な曖昧性を含んだ識別能力や、周囲の変化への対応、それを自動で判断して行動を決定する能力と言った人工知能Ai (Artificial Intelligence)を持たせる事が可能になって来ました。今や人工知能Aiはチェス、将棋、囲碁では人間のプロ棋士より強くなり、お掃除ロボットが家の間取りを学習しながら効率的に掃除をし、無人航空機(ドローン)が隊列を組んで攻撃する技術まで可能となりました。

 医療の世界でも癌を見つける画像診断や、遺伝子情報から病気を見分ける診断能力が人間の医者を上回る事例が報告されて来ました。これから数年後、十数年後というそう遠くない未来には、怪しい動きを感知し危険を予測する技術で防犯や監視、セキュリティーの自動化ができるようになったり、周囲の環境の変化にも対応できる自動運転技術が物流や製造業、農業を自動化できるようになると予測されています。いろんな分野で人間に代わりロボットが仕事をするのです。医療の分野でも介護ロボットが活躍する時代がもうすぐ来そうです。そんな時代になると私たち医者や看護師などの医療者の役割はどうなるのでしょうか?

 現在の人工知能Aiは人間の知能の「一部分」を特化させているもので、過去のデータを検索したり分類したり審査する能力は人間以上です。しかし、芸術などの抽象的で新たな概念を作り出したり、他者との協議や説得交渉、感情管理を必要とする仕事はAiでも代替する事はまだまだ難しいと考えられています。医療の分野では最近EBM(evidence based medicine:根拠に基づいた医療)と言って科学的統計学的に優れていると示された過去の論文データに基づいて治療の選択をする事が大切だと考えられていてこれはAiが得意とする分野でしょう。

 それでは医者や看護師は要らなくなるのでしょうか?そんな事は無いと思います。医療者の仕事のもう一つの大きな柱は、患者さんの意思決定を助けるため医師が行う「協議・説得・交渉」であったり、患者さんの不安や苦しみを理解し共感する看護師やカンセラー、医師の「感情労働」という精神的な部分の仕事で、これは永久とは言わないまでも当分の間はコンピューターに任せる事は出来ません。

 この様に患者さん個々人の背景に合わせた総合的医療のことをEBMに対してNBM(narrative based medicine:物語に基づいた医療)と言います。この新たな医療の考え方は在宅医療や終末期医療などの分野で注目されていますが、一般の医療の中ではまだ余り普及していません。しかしこのNBMの考え方こそがコンピューターでも真似できない、人間の医療者が出来る最も高度な医療なのかも知れません。そして不安を除きたい、癒されたいという患者さんの期待に応える事が出来るのも、高度な診断技術にも増して、この様な個々の患者さんの背景を「おもんばかって」最善と考えられる方向性を示すNBM医療だと思うのです。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会