濵田暁彦医師 コラム No.83
2019/01/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.218」2019年2月号を改訂)

「さいごまで自分らしく生きるために」

2018年末に京丹後市で市民向けの「看取りセミナー」が開催され「さいごまで自分らしく生きるために」というテーマでお話させていただきました。私は内科医としてこれまで多くのがんや肺炎、認知症末期の患者さんを看取ってきましたが、病気で人が死亡する過程には多くの共通点があり、どのような病気でも最後には心停止、呼吸停止、脳機能停止が相次いで起こり死亡と確認されることを説明しました。

 しかし病気の種類によって、心筋梗塞や脳卒中のように「数分から数時間の単位で死亡する病気」、肺炎などの感染症のように「数日から数週の単位で死に至る病気」、そしてがんや認知症、慢性臓器障害(慢性心不全、腎不全、呼吸不全など)のように「数ヶ月から数年で死に至る病気」というように、病気の進行スピードによって大きく3種類に分けて、特にがんや認知症などの様にゆっくりと進行する病気では在宅医療も可能であることをお話ししました。

 私も願わくば住み慣れた自宅で平穏に最後を迎えたいと考える一人ですが、太平洋戦争後の日本では医療が高度化し、最期まで病院で治療を続ける新しいタイプの医療が普及したことで、それまでは9割の人が自宅で平穏に亡くなっていたのが、今では9割の人が病院で最期まで点滴や胃ろうにつながれて様々な合併症を起こしながら亡くなる世の中になってきました。

 最近でこそ在宅での看取りが見直されてきましたが、まだ現状では在宅での看取りはかなり困難な状況だと思われます。その理由の一つには、最期まで楽に過ごしたいという患者さんの思いと、最期まで点滴などの医療を受けることで楽になれるだろうという医療への根強い期待があるからではないでしょうか。しかし多くの看取りを経験してきた今となっては、最期に点滴や栄養を多く入れると、もはや取り込まれなくなってしまった水分や栄養が体じゅうに溜まってしまい、浮腫=むくみを起こしたり、肺やお腹、気道に水が溜まる胸水や腹水、気道分泌増加となって、体が重くて腹が張り、呼吸が苦しくなる状況を作ってしまうことがわかってきました。

 「終末期がん患者の輸液に関するガイドライン」でも、予後の短い活動性の低下した終末期患者さんに1日1000ml以上の多くの点滴をすることは、予後、口渇、倦怠を改善しないだけでなく、浮腫や腹水、気道分泌増加などの症状を悪化させるため、点滴の減量や中止を考慮することを推奨しています。つまり終末期においては医療で治療=キュアできることは少なくなり、看護や介護、精神的な支えといった癒し=ケアが中心となるため在宅でも診療が可能になるのです。

 自宅か病院かどちらの方が安心して自分本来の生活ができるのか?
 60%以上の日本人は終末期に在宅診療を希望しています。自分らしい最後を過ごすためには、家族と終末期に受けたい医療について話し合い、できれば「エンディング・ノート」のような形でメモを残すことが自分の考えを深め、それを周囲に伝える良い方法だと思います。平穏な最期を迎えられるように今から準備をしておいても早すぎることはないのです。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会