濵田暁彦医師 コラム No.80
2018/10/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.215」2018年11月号を改訂)

「がんとは何か?」-その13- 免疫力と抗がん剤治療

今年のノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑(ほんじょたすく)先生は、私も学生時代に免疫学の講義を受けた記憶がありますが、先にノーベル賞を受賞された利根川進先生が免疫細胞のBリンパ球遺伝子が外敵(抗原)によって千差万別に変化して多様な抗体を産生する「遺伝子再構成」の仕組みを発見された事に続いて、本庶先生もBリンパ球の「クラススイッチ現象」という画期的な発見をされ、当時からノーベル賞候補とも言われていました。

 その後今度は「がん細胞が免疫細胞のTリンパ球を抑えて免疫から逃れている」ことを発見され、その発見から逆にがん細胞がTリンパ球を抑え込めない様にしてTリンパ球の免疫力でがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害薬」という新たな種類の抗がん剤が誕生することにつながりノーベル賞を授賞されました。

 これまで抗がん剤は時代と共に進歩して来ましたが、一番初めの抗がん剤はマスタードガスという第一次世界大戦中にドイツで開発された毒ガスから作られたものでした。その後の抗がん剤も基本的には「細胞分裂を抑える」というがんにも人体にとっても無差別攻撃を行う強い毒物であり、血液減少による免疫力低下や皮膚・消化器・神経障害などの重い副作用が必ず付いて来ました。そのため抗がん剤治療を行う医師は、副作用を軽減し免疫力を維持することにも苦心します。この様な従来の抗がん剤治療に新たな変化が現れました。
 
 従来の抗がん剤が無差別攻撃をする毒薬であったのに対し、新たなタイプの抗がん剤はがん細胞で特に多く作られている物質を狙ってピンポイントで攻撃をするタイプの「分子標的薬」という薬です。現在では多くの種類の分子標的薬がありますが分子標的薬も万能ではありません。やはり健康な細胞にも多少の悪影響を与えますし、従来の抗がん剤ほど威力が強くありません。基本的には従来の無差別攻撃型の抗がん剤と一緒に併用して治療をすることでより効果的にがんを小さく出来るのです。

 更に新しいこの「免疫チェックポイント阻害薬」は直接がんを攻撃するのではなく、免疫力を高めて免疫力でがんを抑えるという点でこれまでのがんを攻撃するタイプの抗がん剤とは全く異なります。夢の抗がん剤と思われたこの薬ですが、効くがんが限られていて、Tリンパ球が患者さん自身の体を攻撃してしまう「自己免疫病」を発病しやすいという弱点もあります。

 やはり現在までの抗がん剤治療では、あくまでも手術の前後に補助的に使ったり、放射線治療の補助として使ったりすることでがんの根治を目指すことはできても、抗がん剤だけで固形がんを全滅させることは未だ不可能と言わざるを得ません。白血病や悪性リンパ腫といった血液の腫瘍では抗がん剤だけでの根治があり得るのですが、固形がんでは抗がん剤だけでの根治は難しく、あくまでも延命治療の位置づけです。抗がん剤の限界を理解しつつ、自分の免疫力を低下させないことにも注意しながら上手に抗がん剤治療を受けることが大切なのです。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会