濵田暁彦医師 コラム No.77
2018/07/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.212」2018年08月号を改訂)

「漢方の魅力」-その2-「熱を上げて風邪を治す」漢方の治療法

有名な「かぜに葛根湯(かっこんとう)」の葛根湯やインフルエンザに有効な「麻黄湯(まおうとう)」、鼻水を伴う風邪に使う「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」などにはどれも「麻黄(まおう)」と「桂皮(けいひ)」という生薬(しょうやく)が含まれていて、この麻黄と桂皮には発熱・発汗作用があります。
 「桂皮」は「シナモン、肉桂(にっけい、にっき)」とも呼ばれ、アップルパイや「八つ橋」などのお菓子、コーヒー・紅茶・カクテルなどに香辛料としてよく使われます。また桂皮は昔から世界中で薬としてもよく使われており、6千年前のエジプトのミイラには防腐剤としても使われていたそうです。
 一方「麻黄」は、日本の初代薬学会会頭の長井長義(ながいながよし)が明治18年(1885年)に麻黄から「エフェドリン」という強力な交感神経刺激物質を抽出したことで有名です。発熱発汗作用の他に、気管支拡張、鎮咳、血圧上昇、覚醒などの体を興奮させる様々な作用があるので麻黄の入った漢方は、スポーツの世界では「ドーピング」薬剤になっています。

 ところで風邪やインフルエンザなどの感染症治療に漢方が使われる時には、この「発熱発汗」作用を利用しています。このことは2千年近く前の漢方の最も有名な古典的医学書「傷寒論(しょうかんろん)」に詳しく書かれていますが、この「熱を上げて風邪を治す」という昔からの漢方治療は、「熱が出たら熱冷まし」という西洋薬の治療とは全く反対です。
 ではどちらの治療法が良いのでしょうか?実は西洋薬は風邪の治療が苦手です。「風邪は自分の免疫力で自然に治る」というのが西洋医学の大前提で、西洋薬がしていることは「対症療法」と言って症状を抑えて風邪が自然に治るのを待っているだけなのです。

 対症療法とは「熱がでたら熱冷まし」「頭痛の時は痛み止め」というように症状を抑える治療のことで、決して根本的に治している訳ではなく、逆に副作用も意外と多いのです。水分補給のための「点滴」は食欲低下を来している風邪の患者さんには最も効果的な西洋薬治療法ですが、点滴も水分補給という対症療法の1つであって決して風邪自体を治す治療法ではありません。
 しかし最近西洋医学の実験でも、風邪などのウイルス感染では体温が高い方がウイルスが減り、逆に解熱薬を使って体温を下げるとウイルスが増えやすいことが分かっており、また免疫細胞の白血球は体温が高い方が数が増えて免疫力が増し、解熱剤を使うと免疫の働きが弱くなることが分かっています。つまりウイルスなどの急性感染症では漢方治療の様に積極的に熱を上げた方が免疫力が上がり早く治るのです。
 
その他にも漢方の風邪治療が優れている点は、若い人と高齢者のように体力や体格の違う人にはそれぞれに合った違う薬を使ったり、風邪が治る過程で長引く咳や熱、食欲低下などの症状に対しても、何十種類もの処方を用意して細やかに対応できる点にあります。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会