濵田暁彦医師 コラム No.76
2018/06/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.211」2018年07月号を改訂)

「漢方の魅力」-その1-忘れられた日本古来の優れた医学

今回は少し道草をしましょう。最近私は西洋薬と漢方薬を組み合わせて治療することが多くなりました。漢方薬には西洋薬にはない独自の効力があり非常に魅力的だからです。
 西洋医学は「けが(外傷)」や「がん」の外科治療において非常に発展してきました。また内科的にはイギリスのジェンナーによるワクチンの発明、フレミングによる抗生物質の発見などに始まり感染症の治療が飛躍的に発展しました。その他にも遺伝子の解析やそれを治療に取り入れた多くの生命科学技術に支えられ、西洋医学はこれまで「死に行く病(やまい)」であった外傷やがん、重症感染症を克服して来たのです。

 それに対し江戸時代までの日本の医学は遠く飛鳥時代に遡(さかのぼ)り、遣唐使によって中国から伝わって来た医学を基(もと)として日本独自の「漢方医学」として発展してきました。ちなみに中国の医学のことを「中医学(ちゅういがく)」と言います。千年以上続き発達してきた日本の漢方医学ですが、江戸時代の末期頃より日本に西洋医学が輸入され、明治維新を境(さかい)に完全に西洋医学が漢方医学に取って変わりました。
 その後漢方医学は廃(すた)れてしまいほとんど忘れ去られた存在になってしまったのです。明治維新で西洋文化に取って変わられたのは何も医学だけではなく、美術、音楽、衣服、料理、建築、科学技術、政治経済に至るまで、あらゆる日本の文化が一気に西洋化しました。西洋化は良いこともあった反面、昔からの日本文化の素晴らしいものが数多く失われるという残念な側面もありました。
 医学の分野では、漢方医学はがんや外傷、重症感染症のような命に関わる重病に対してはほとんど無力であったかも知れませんが、日々の生活で人々がよく経験する多様な症状、疲れ、肩凝り、いらいら、食欲不振、冷えなど、これを西洋医学では「不定愁訴(ふていしゅうそ)」などと呼んであまり真剣に取り扱おうとしない風潮がありますが、漢方医学ではこのような命には関わらないけれど生活の質を低下させる様々な「不定愁訴」に対しては、実はかなり有効であることが多いのです。
 更に最近では、免疫力を高めたり、認知症やフレイル・サルコペニアという「老化現象」にも漢方薬が有効であったり、めまいや吐き気、腹痛や頭痛、便秘や咳などの様々な苦しい症状に対しても、使い方次第では西洋薬以上に漢方薬が有効な場合もあると再認識されてきています。

 問題は漢方薬の使い方の基本が「人に合わせて処方する」ことに真髄があるのに対して、「病気に合わせて処方する」西洋薬とは考え方が大きく異なっているために、西洋医学だけを学んでいる現在の日本の医者にとっては取っつきにくい医学になっているという点なのです。
 

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会