濵田暁彦医師 コラム No.71
2018/01/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.203」2018年02月掲載)

「がんとは何か?」-その6-「がんは遺伝子DNAの損傷から生じる」


 私たちヒトの体は37兆個もの細胞で出来ています。そしてその全ての細胞が1個の受精卵から分裂して増えるのです。元の細胞が持つ30億個のDNAの配列を、丸ごと一式コピーして次の細胞が受け継ぎます。

 DNAのコピーはきわめて正確に行われ、37兆個すべての体細胞が全く同じ30億個のDNA配列を核の中に持つようになっています。しかし、私たちの細胞はとりまく環境の影響を受けて、毎日1つの細胞に50万個ものDNAの損傷が起きると言われています。
 それでは細胞が次々と異常を起こすと思われるかも知れませんが、安心して下さい、私達の体には傷ついたDNAをちゃんと修復する働きが備わっていて、通常はDNAが傷ついても元どおりに治せます。さらにこの修復の働きが悪くなったり、DNAの損傷が非常に多くなり修復機構が追いつかなくなったとしても、異常な細胞は「細胞老化」という休眠状態に陥ったり、「アポトーシス」という細胞の自殺を起こして、異常な細胞がそれ以上増えない仕組みを幾重にも持っているのです。
 このような巧妙な仕組みをいくつもかいくぐった異常細胞が生き残った時、とうとう最後に「癌化」して体にとって好ましくない異常増殖を起こし始めます。このDNAの損傷による遺伝子の変化が、癌化ではなくて周りの環境により適した好ましいものなら、その遺伝子を持つ方がより生存競争で生き残りやすくなり、結果として「進化」することになります。

 つまりDNAの損傷による変化=「遺伝子変異いでんしへんい」は、元々生物の進化のために、周りの環境が変化してもそれに対応して生き延びて行けるように、私達の祖先がこの地球上に生まれた時に選び取った処世術だったのです。しかしその代償として「癌化」という負の側面も背負うことになってしまいました。これをみると「生命の進化」と「個体の癌化」は実は表裏一体のものだと解ります。
 以前にご紹介したワトソンとクリックがDNAの構造を明らかにして以降、このDNAからタンパク質が作られる過程が科学的に詳しく解ってきました。それと同時に癌がどのような遺伝子やDNAの異常で起こり、どの様な異常なタンパク質により起こるかも次々と解ってきて、がんに特徴的な異常なタンパク質を標的として「分子標的薬」という新たな抗がん剤が次々と開発されています。

 このように癌化は地球上の生命にとって避けられない宿命ではありますが、がんの研究者達はその宿命に果敢に立ち向かい、がんを克服しようと日々努力を重ねているのです。

執筆
濵田 暁彦

宮津高校、京都大学卒。
丹後中央病院消化器内科主任部長、京都大学医学部臨床講師、宮津武田病院非常勤。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断(ESD)、胆膵内視鏡ERCP、超音波内視鏡等が専門。様々な不定愁訴に対しても、総合内科と漢方を融合させた治療を実践中。