濵田暁彦医師 コラム No.68
2017/10/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.200」2017年11月号を改訂)

「がんとは何か?」その5「遺伝子DNAの 二重らせん構造発見の裏側」


 前回「遺伝子」は染色体のタンパク質ではなくDNAの方にあったというエイブリーの大発見のお話でした。今回はこのDNAがどのような構造をしているかという20世紀最大の発見のお話です。

当時DNAには4種類の構成要素があり、そのうちA(アデニン)とT(チミン)の含有量は常に等しく、またG(グアニン)とC(シトシン)の含有量も同じであることがわかっていました。これを「シャルガフの法則」といい、研究者達はこの法則を元にDNAがどのような形をしているのかを必至に探っていました。

その中でイギリスのケンブリッジ大学の若き研究者ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックの2人はボール紙や針金を組み合わせて分子モデルを作りながら、DNAの構造について考え議論を重ねていました。一方同じイギリスのロンドン大学では、モーリス・ウィルキンズとロザリンド・フランクリンがDNAの構造研究を行っていました。

ロザリンドはユダヤ系の裕福な家庭で育った非常に優秀な女性で、フランスに留学してX線結晶学という高度な数学と物理学の知識が要求される研究を習得していました。この研究とはまず調べたい物質の高純度の結晶を作ることから始まり、試行錯誤して出来た結晶にX線を照射し、散乱したX線を感光紙に記録します。星空の様に紙の上にばらまかれた点を複雑な数学の計算をすることで物質の構造を知るのです。このような難解な方法で、彼女はDNAにはA型とB型の2種類があることを明らかにし、それぞれの結晶を作ることに成功し、更にそのX線散乱写真を撮影することにも成功しました。

当時誰よりも着実にDNAの構造解明に近づいていた彼女は最終の複雑な数学的計算を進めていました。しかし、そのDNAのX線写真を彼女の同僚で仲の悪かったウィルキンズが、友人のワトソンに密かに見せてしまったのです。また彼女の研究は、イギリスの医学研究機構に年次報告として提出され、それをクリックは上司ペルーツから密かに見せられていました。つまり、ワトソンとクリックの2人が1953年にネイチャー誌に発表した有名な「DNAはAとT、GとCが互いに対になった二重らせん構造である」という発見は、ロザリンドのX線結晶学からわかった結果だったのです。

ロザリンドは1958年に37歳の若さで癌により亡くなり、その後1962年にワトソンとクリック、そしてワトソンにロザリンドのX線写真を見せたウィルキンズの3人がノーベル医学生理学賞を受賞しました。ロザリンドは自分のデータが密かに見られたことも知らずに、短いしかし非常に充実した研究人生を終えたのでした。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会