濵田暁彦医師 コラム No.68
(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.200」2017年11月掲載)

「がんとは何か?」その5
「遺伝子DNAの 二重らせん構造発見の裏側」

前回「遺伝子」は染色体のタンパク質ではなくDNAの方にあったというエイブリーの大発見のお話でした。今回はこのDNAがどのような構造をしているかという20世紀最大の発見のお話です。

当時DNAには4種類の構成要素があり、そのうちA(アデニン)とT(チミン)の含有量は常に等しく、またG(グアニン)とC(シトシン)の含有量も同じであることがわかっていました。これを「シャルガフの法則」といい、研究者達はこの法則を元にDNAがどのような形をしているのかを必至に探っていました。

その中でイギリスのケンブリッジ大学の若き研究者ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックの2人はボール紙や針金を組み合わせて分子モデルを作りながら、DNAの構造について考え議論を重ねていました。一方同じイギリスのロンドン大学では、モーリス・ウィルキンズとロザリンド・フランクリンがDNAの構造研究を行っていました。

ロザリンドはユダヤ系の裕福な家庭で育った非常に優秀な女性で、フランスに留学してX線結晶学という高度な数学と物理学の知識が要求される研究を習得していました。この研究とはまず調べたい物質の高純度の結晶を作ることから始まり、試行錯誤して出来た結晶にX線を照射し、散乱したX線を感光紙に記録します。星空の様に紙の上にばらまかれた点を複雑な数学の計算をすることで物質の構造を知るのです。このような難解な方法で、彼女はDNAにはA型とB型の2種類があることを明らかにし、それぞれの結晶を作ることに成功し、更にそのX線散乱写真を撮影することにも成功しました。

当時誰よりも着実にDNAの構造解明に近づいていた彼女は最終の複雑な数学的計算を進めていました。しかし、そのDNAのX線写真を彼女の同僚で仲の悪かったウィルキンズが、友人のワトソンに密かに見せてしまったのです。また彼女の研究は、イギリスの医学研究機構に年次報告として提出され、それをクリックは上司ペルーツから密かに見せられていました。つまり、ワトソンとクリックの2人が1953年にネイチャー誌に発表した有名な「DNAはAとT、GとCが互いに対になった二重らせん構造である」という発見は、ロザリンドのX線結晶学からわかった結果だったのです。

ロザリンドは1958年に37歳の若さで癌により亡くなり、その後1962年にワトソンとクリック、そしてワトソンにロザリンドのX線写真を見せたウィルキンズの3人がノーベル医学生理学賞を受賞しました。ロザリンドは自分のデータが密かに見られたことも知らずに、短いしかし非常に充実した研究人生を終えたのでした。

執筆
濵田 暁彦

宮津高校、京都大学卒。
丹後中央病院消化器内科主任部長、京都大学医学部臨床講師、宮津武田病院非常勤。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断(ESD)、胆膵内視鏡ERCP、超音波内視鏡等が専門。様々な不定愁訴に対しても、総合内科と漢方を融合させた治療を実践中。