濵田暁彦医師 コラム No.67
2017/09/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.199」2017年10月掲載)

「がんとは何か?」その4「遺伝子は何でできているのか?」

「がん」を知る上で「遺伝子」とは何か?を知ることは重要です。

 前回は遺伝子が細胞の核内の染色体にあることが分かりました。今回は遺伝子が何でできているのか?という疑問についてのお話です。

 染色体は「タンパク質」と「DNA(ディーエヌエー:デオキシリボ核酸)」という高分子酸性物質の二種類から出来ていることが知られていました。しかし当時は、タンパク質には多種多様な種類や働きがあるのに比べ、DNAは多様性に乏しく単純な構造であるため、タンパク質こそが遺伝子を担う正体だと考えられていました。しかしその後この科学の常識が覆されます。

 1928年ちょうどイギリスのフレミングが青カビから抗生物質ペニシリンを発見したのと同じ年、同じくイギリスのグリフィスは肺炎球菌を用いて、病原性のあるS型肺炎球菌を加熱して死滅させ、病原性の無い生きたR型菌と混ぜてマウスに注射すると、マウスが肺炎で死亡し病原性のある生きたS型菌が検出されたという「グリフィスの実験」を発表しました。
 これは何らかの遺伝物質が死んだS型菌から生きているR型菌に取り込まれ、R型菌がS型菌に変化したものと考えられました。残念ながらグリフィスはこの「遺伝物質」が何か?を発見することはできませんでした。

 しかしこれを受け継いだのはアメリカのオズワルド・エイブリーです。彼は慎重で控えめな科学者であったためにコツコツと何度も実験を繰り返しました。その結果は科学の常識に反したもので初めはエイブリー自信も半信半疑でした。
 エイブリーの実験とは、病原性のあるS型菌を死滅させたものに、まずタンパク質分解酵素を用いてタンパク質を破壊しR型菌に与えました。するとR型菌は病原性を持つS型菌に変化したのです。逆にDNA分解酵素を用いてDNAを破壊しR型菌に与えましたが、R型菌は病原性を持つことはありませんでした。つまり、病原性を伝える「遺伝子」はタンパク質ではなく「DNA」の方であることが証明されたのです。そしてこの画期的な発見は1944年にひっそりと当時彼が所属していたロックフェラー医学研究所が発刊する科学専門誌に発表されたのでした。

 次回は、いよいよ20世紀最大の科学的発見の1つと言われる「DNA構造」の発見と、その裏に隠された科学史上のミステリー・エピソードをお話します。


執筆
濵田 暁彦

宮津高校、京都大学卒。
丹後中央病院消化器内科主任部長、京都大学医学部臨床講師、宮津武田病院非常勤。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断(ESD)、胆膵内視鏡ERCP、超音波内視鏡等が専門。様々な不定愁訴に対しても、総合内科と漢方を融合させた治療を実践中。