濵田暁彦医師 コラム No.61
(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.193」2017年4月掲載)

「人が『死別』と直面するとき」ーその3

WHO(世界保健機関)は、死期が迫った患者の苦痛を4種類挙げています。

「身体的苦痛」と「精神的苦痛」は医師・看護師・カウンセラーなどの医療者がケアに当たります。「社会的苦痛」についてはソーシャルワーカーが相談に乗ります。しかし「スピリチュアルな苦痛」つまり「死の恐怖や死生観の悩み」については対応できる専門家がこれまで日本にはいませんでした。

2011年3月の東日本大震災を期に、緩和ケア医師の岡部健は「終末期の人々の心のケアには宗教者の力も必要だ」と考え、まず東北大学で「臨床宗教師」の養成が始まりました。その後2016年2月には日本臨床宗教師会として全国的な組織に発展してきました。「臨床宗教師」は仏教やキリスト教など30を超す宗教や宗派が連携し、病院・被災地などの公共の場で、信徒であるなしに拘わらずわけへだてなく人々の悲しみに寄り添い心のケアを実践する宗教者(僧侶、神父、牧師等)を指します。この名称は仏教の「ビハーラ」やキリスト教の「チャプレン」を含む名称で、医療・社会福祉の専門職と宗教者がチームを組んで患者さんや苦悩する人々の心のケアを提供するという願いが込められています。

臨床宗教師の役割は特定の宗教を勧めるのではなく、患者の話に耳を傾け、それぞれの患者さんに自分の人生の価値に気づいてもらい、死への恐怖を和らげることです。まだ始まったばかりの活動ですが、終末期の患者さんを心の面でサポートする大切な役割が今後は認識される様になるでしょう。

またこれとは別に、死別後に残された家族も、不安と喪失、立ち直りの思いの間で心が揺れ動き、時には体の不調を経験します。これを「グリーフ(悲嘆)」という言葉で表します。グリーフは『はなちゃんの味噌汁』のはなちゃんの様な5歳の子供と、お父さんの様な大人では異なった状態であることがわかっています。小さな子供にはまだ「死」が理解できず「お母さんはどこにいったの?いつ帰ってくるの?」と素朴に尋ねたりします。対して大人は、喪失感の辛さを受け入れられず無気力になったり、アルコールに依存するなどの精神の変調を来します。このようなグリーフにある人々それぞれに寄り添い援助する「グリーフケア」という活動が始まっており、グリーフケアを専門に行う人材の育成も徐々に進んでいます。

この様に終末期の患者さんや、患者さんの家族を様々な面からサポートする体制は今後ますます発展して行くと期待されます。

次回からは、また各臓器の病気についてお話して行きます。

執筆
濵田 暁彦

宮津高校、京都大学卒。
丹後中央病院消化器内科主任部長、京都大学医学部臨床講師、宮津武田病院非常勤。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断(ESD)、胆膵内視鏡ERCP、超音波内視鏡等が専門。