濵田暁彦医師 コラム No.56
2016/10/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.188」2016年11月号より改訂)

「睡眠(すいみん)」の話ーその2

人間を始め、どんな生き物にも「眠り」が必要です。空を飛ぶ渡り鳥は飛びながら、海を泳ぐイルカは泳ぎながら、片側の脳と目だけで眠り、反対の脳と目を使って動き続けるのです。これは生き物が進化の中で身につけた驚きのワザですが、逆に言えばどんなに進化しても「眠る」ことは絶対に必要だという訳です。

 1980年代にシカゴで実験用ねずみを使って「眠らせないとどうなるか?」という実験が行われました。2週間も経つとラットは毛が抜け、体温が下がり、食べても痩(や)せて行き、3週間ほどで免疫力が低下して感染症で死んでしまいました。人間でも、1960年代にアメリカの17歳の高校生ランディ・ガードナー君が冬休みの自由研究で「不眠記録への挑戦」をくわだて、カフェインなどの興奮剤を一切使わずに264時間=11日間の不眠記録を作りギネス記録となりました。

 ランディの断眠はスタンフォード大学のウィリアム博士によって詳しく記録されました。それによると、2日目には怒りっぽくなり、体調不良、記憶障害が起こり、4日目には妄想や幻覚が出現、7日目には震えが止まらなくなり、しゃべれなくなりました。11日目にようやく眠りにつくと15時間眠り、1週間後にようやく元の元気な状態に戻りました。

 この様に体や精神の健康維持には睡眠が必要なことは明らかですが、なぜ睡眠が必要かはまだはっきり分かっていません。ただ睡眠中に起こっていることは徐々に解明されています。例えば、眠りには「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という性質の異なる眠りの状態があって、「レム睡眠」中には脳が非常に活発に働き「夢」を見ているのに対して、体の運動や感覚はほぼ停止した状態にあります。逆に「ノンレム睡眠」中は脳は余り活動しておらず、体は運動や感覚が通常の状態にあるため、「夢遊病」の様に歩いたりしゃべったりしても全く意識や記憶がない状態になることもあります。

 また、眠ることで頭がスッキリと冴えて、記憶力が回復することは誰しも経験することですが、実は眠りによって更に「記憶が強化」されることもわかっています。スポーツや楽器の練習などをしていて上手くできなかったことが、数日すると突然上手になることがありますが、これは起きているときに経験や学習したことを眠っている間に脳神経のネットワークの再構築をすることで、記憶を強化して定着させているためだと考えられています。つまりテストの直前に「忘れるといけないので寝ない!」というのは間違いです。「寝た方が覚えたことを忘れない」ことは様々な実験で示されているのです。

 次回は、最近の不眠症の治療についてのお話をします。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会