濵田暁彦医師 コラム No.50
2016/04/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.182」2016年5月掲載)

「腸内細菌」の話ーその2

「腸内フローラ」とは腸内に住む多種多様な細菌の「お花畑」の意味で、昨年来テレビなどでもよく取り上げられるようになりました。

医学の世界でも今最もホットな研究分野の一つとして注目されています。この数年の間にもこれまでの常識を覆す様々なことが分かってきています。前回のコラムで、刺激性下剤や抗生物質が腸内フローラを乱してかえって悪玉菌が増え病気にさえなる事があるというお話をしました。

一例に普段は腸内フローラの中におとなしく住んでいるCD(シー・ディー=クリストリジウム・ディフィシル)という日和見菌があります。この菌は元々抗生物質が効きにくく、免疫力の低下した宿主(しゅくしゅ=住み着いている人間)が病気で抗生物質を内服したり点滴したりして周囲の腸内細菌が少なくなると、CD菌が増え出して凶悪化し「CD腸炎=偽膜性腸炎」という抗生物質でも治りにくい怖い腸炎を引き起こします。

アメリカではこの腸炎で年間2万人近くもの人が死亡するというデータがあり社会問題化しているのです。しかし近年このCD菌による腸炎に対して驚くような治療法が報告されました。なんと健康な他人の便をCD腸炎の人に注入する「便移植(FMT=fecal microbiota transplantation)」という治療法で81%の人が一回の治療で回復したというのです。つまり健康な腸内フローラを病気の人に移植すると乱れた腸内フローラが正常化して、凶悪化したCD菌がまた元の様におとなしい日和見菌に戻るということなのです。CD菌を排除している訳ではないのに病気が治ってしまったのです。ここにこれまでの常識を覆す発想の転換があります。

つまり病気の原因となる菌=病原菌を抗生物質で駆除するのではなく、逆に病原菌でない常在菌=腸内フローラを回復させることで病原菌をおとなしくさせることが可能だという発想です。

抗生物質は以前にもお話ししましたが、たかだか100年ほど前に青カビの成分から発見されたに過ぎませんが、実はこの便移植は抗生物質が発見されるよりはるか昔、今から約1700年前の4世紀の中国=晋の時代には行われており、ヨーロッパでも16世紀頃に健康回復のために行われていました。また獣医学の世界でも何世紀も前から馬の慢性下痢や牛、羊の胃の病気に対して行われており決して新しい方法ではなかったのです。

このような腸内フローラの重要性が再認識される様になってから最近にわかに腸内フローラと人間の発育、病気、健康との関係や、生物の進化に至るまで様々な研究が進められるようになってきたのです。

執筆
濵田 暁彦

宮津高校、京都大学卒。
丹後中央病院消化器内科主任部長、京都大学医学部臨床講師、宮津武田病院非常勤。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断(ESD)、胆膵内視鏡ERCP、超音波内視鏡等が専門。