濵田暁彦医師 コラム No.48
2016/02/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.180」2016年3月掲載)

「時計遺伝子」の話-その2

地球上の全ての生き物は、地球・月・太陽など宇宙の天体の動きのリズムに相応した体内時計を時計遺伝子として持っています。太古の昔からこの体内時計の力で地球上の様々な環境変化に対応して生き延びて来たのです。逆に時計遺伝子を持たない生命は生き残れなかったと考えられています。

時計遺伝子の働きは実に複雑で巧妙です。1日のリズムの事を「概日(がいじつ)リズム=サーカディアンリズム」と言いますが、これがもっとも基本的な体内時計のリズムです。活動・食事・睡眠などの一日の体のリズムは時計遺伝子から作られた時計タンパクによって様々なホルモンの量を時間と共に増やしたり減らしたりすることで調整されます。

例えば血圧を上昇させるホルモンのレニンやアンギオテンシン、アルドステロンなどは夜明けから早朝に増えるという概日リズムがあり、血圧は朝に高く夜に低くなるという周期性があります。

また自律神経の交感神経を刺激するカテコラミン(アドレナリンなど)のホルモンも日中に増えて夜睡眠中に減るために、夜には気道を拡張させるアドレナリンの働きが弱くなり気道は狭くなりやすく喘息(ぜんそく)発作が起きやすくなります。

また脳の松果体という部位から分泌される「メラトニン」というホルモンは眠気を感じるホルモンで、朝起きて光を浴びてから約15時間後に増えてきて、脳にある体内時計に働きかけて夜が来たことを知らせ、眠気を誘います。しかし、夜でも電気をつけて明るくしているとこのメラトニンの分泌が少なくなり、眠れなくなってしまいます。不眠は副腎ホルモンのコルチゾール(いわゆるステロイド)という覚醒ホルモンを増やしてしまい、糖尿病やメタボリック症候群になり易くなってしまいます。更にこのメラトニンには、自律神経や免疫を整えたり、脳梗塞や心筋梗塞、骨粗鬆症を予防したり、発癌の抑制や老化の抑制といった作用もあるため、規則正しい睡眠はやはり健康や若さと深く関わっているのです。

今回ご紹介したのは、体内時計が作り出す1日のリズムのほんの一部ですが、体内時計には1週間のリズムや、女性の月の物の様に1ヶ月のリズム、動物の越冬、草花の開花の様に1年のリズムなど様々なリズムがあり、それらは太陽や月、地球と言った天体の活動リズムに影響を受けているのです。体内時計が宇宙と調和した精巧な仕組みで私達の健康の維持と老化の抑制を調節しているという哲学的とも言える事実が科学的に解ってきたことは非常な驚きです。

大事なことは、体内時計に合わせて規則正しい生活を送ること、また病気の治療にも「時間医学」の考えを取り入れて薬を飲む時間を調整することが、健康で若々しい生活を送る上では最も重要なのです。

執筆
濵田 暁彦

宮津高校、京都大学卒。
丹後中央病院消化器内科主任部長、京都大学医学部臨床講師、宮津武田病院非常勤。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断(ESD)、胆膵内視鏡ERCP、超音波内視鏡等が専門。