濵田暁彦医師 コラム No.38
2015/04/20(与謝野町くすぐるカード会発行「くすぐる vol.173」2015年5月号より改訂)

「熱」の話ーその1

「かぜ」で熱が高くなると「解熱剤」や「総合感冒薬」、「抗生剤」を飲むことが当たり前の治療と思われてきましたが、前にもお話した様に医学的には「かぜに抗生剤は無効」だとわかっていますし、今回お話する様に熱を下げすぎるとかえって良くないこともわかってきました。

 ウイルスや細菌などの病原体が繁殖して体に異常が生じた時、白血球という一群の免疫細胞が出動してこの病原体を攻撃します。この時に様々な攻撃の道具が作られますが、その内の「内因性発熱物質」と呼ばれる数種類のたんぱく質の情報が脳の「体温調節中枢」に届くと「熱を上げよ」という指令が体じゅうに出されます。

 この命令が出ると、皮膚の血管が締まったり汗が出なくなったり、筋肉がぶるぶると震えて体温が上がるように自分の体を働かせます。熱が高くなると病原体は増殖しにくくなり、替わりに白血球の動きが活発になり病原体を「貪食(どんしょく)」=つまり文字通りどんどんと食べて行くのです。

 このように感染症の時に体はわざと「熱」を出して自分で自分の病気を治しているのです。これは私達が元々持っている「自然治癒力」です。様々な医学の研究で「発熱」には感染症を治す働きがあることが分かっています。例えばイグアナや金魚、うさぎなどの動物実験で、熱を冷ます「解熱鎮痛剤」を使うことで病原体が増殖してしまい死亡しやすくなり、逆に体温を上げる方が生き残りやすいことがわかっています。

 ヒトでも重症の肺炎や敗血症 (血液中に細菌が侵入している状態)では38.3度以上の高熱の人の方が生き残る割合が高いことがわかっています。漢方薬の麻黄湯(まおうとう)や葛根湯(かっこんとう)ではわざと発熱させて感染症を治しますが実は非常に理(り)にかなっているのです。

 高熱で問題になる脱水症や腎不全は点滴などで水分を十分に摂ることで予防できますし、また高熱時に心配な「熱性けいれん」は実は解熱剤で防げるものではありません。熱性けいれんは抗ヒスタミン薬というアレルギー薬が入った風邪薬で起こりやすいことがわかってきたため、アメリカでは子供に総合感冒薬を飲ませないように勧告しています。また脳炎や髄膜炎も解熱剤では防ぐことができず、ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンによる予防接種が最も重要であることが解っています。

 日常的によく経験する「熱」ですが、原因によって治療が異なり時代と共に治療法も変わっているのです。

執筆
濵田 暁彦

1974年京都府宮津市生まれ。1993年宮津高校卒業。1年間浪人生活を京都駿台予備校で送り翌年京都大学医学部入学。2000年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院内科研修を1年行う。2001年京都桂病院内科に研修医として赴任。2002年京都桂病院消化器内科医員となり、2007年同副医長。2010年故郷である丹後中央病院消化器内科部長として赴任。現在丹後中央病院消化器内科主任部長兼内視鏡室室長、他に京都大学医学部臨床講師(2015年〜)、宮津武田病院非常勤を務める。モットーは「楽な胃カメラ」「痛くない大腸カメラ」。早期癌の診断治療(拡大内視鏡・食道胃大腸ESD)、胆膵管内視鏡ERCP、超音波内視鏡EUS、EUS-FNA等が専門。機能性胃腸症:FDや過敏性腸症候群:IBS、便秘などで苦しむ患者さんの治療や、様々な不定愁訴に対しても西洋医学(総合内科)と漢方医学を融合させた医療を実践中。また老衰や認知症に伴う肺炎などの終末期患者さんの看取りや、各種がんの終末期緩和ケア&看取りをこれまで多くの患者さんに行い、安らかな最期を迎えられるようチーム医療で取り組んでいる。

所属学会・認定専門医
日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本膵臓学会、日本胆道学会、日本臨床細胞学会、日本食道学会、日本肝臓学会、日本ヘリコバクター学会認定医、日本腹部救急医学会、日本時間生物学会、日本臨床腸内微生物学会、日本東洋医学会